みなさま
まず最初に新型コロナウィルス(COVID-19)感染とその後の医療事情の変化により、不幸にして亡くなられた方々、そのご遺族、ご友人の方々に謹んで哀悼の意をささげたいと思います。また、感染の不安と戦いながら最前線で働いてくださった関係者の方々には心から感謝申し上げます。
昨年2019年末に新型コロナウィルス(COVID-19)のアウトブレイクが報じられて以降、世界はほんの数か月で激変していきました。その最大のものはウィルスの感染を予防するために直接人と人が会うことを強制的に忌避しなければならない事態になったということです。つまり集団精神療法だけでなく心理療法・精神療法の世界ではこれまでに考えたこともない事態に陥ったのです。3月に行われるはずだった日本集団精神療法第37回大会も、大変残念なことに大阪経済大学での開催を取りやめざるを得なくなりました。「治療共同体」を大会の中で実際に体験するという意欲的な大会の取りやめは多くの方々、特に古賀大会長以下運営委員の方々には大きな痛手であったと思います。また多くの方々にとっては、年1回の大会で普段会えない会員同士と旧交を温め互いの成長や変化を確かめ合う場が、また新たな参加者の方々や新鮮な考えと出会う場が失われてしまったことに深い喪失感を覚えたのではないでしょうか?
第38回大会は2021年3月20日21日に「集団精神療法の知を問う」というテーマの下に開催予定です。これは中村雄二郎(1992)の「臨床の知とは何か」から啓発されて考えたテーマです。中村は臨床の知を「個々の場合や場所を重視して真相の現実にかかわり、世界や他者が我々に示す隠された意味を相互行為の内に読み取り、捉える働きをする」ものである(p135)と定義します。そして「直観と経験と類推の積み重ねから成り立っているので、そこにおいては特に経験が大きな働きをし、また大きな意味を持っている」(p136)と説きます。日本集団精神療法学会は常に理論とそして経験から学ぶことを重視してきました。国内外からの理論を取り入れつつ、臨床の現場でいかに実践していくかを考え、知見と工夫を積み重ねてきました。ただ、この知見や工夫、すなわち「集団精神療法の知」を言葉にし、互いに研鑚し、外に発信することを私たちはどこかで臆していないでしょうか?集団精神療法が何ができるのかを、本大会で今一度問い直してみたいと思います。
本大会では様々な集団精神療法の技法を実践する中で、どのような工夫がなされ、どのように生かされてきたかを問い直す大会にしたいと思います。今回はドイツからグループアナリストのエリザベス・ロアを招き、実践的なグループアナリシスの臨床について講演とスーパーヴィジョンをお願いする予定です。また、今、世界中でソーシャル・ディスタンスを埋める様々な試みが始まっているなかで、これまでの知見だけでなく、Webのような新たなツールを使った知見をどのように集団精神療法の中に活かしていくかを持ち寄り考える機会にもなることを期待しています。
最後に、本大会はWeb開催とすることにしました。この大会の準備を始めた2020年1月の時点では、どこかで2021年の3月には東京都千代田区にある一橋講堂での開催が可能ではないかと楽観視していましたが、感染者数は7月、8月と激増していくのを見ると、どう考えても2021年3月時点での現地開催は無謀であり、むしろオンラインシステムによるWeb開催を決断することの方が現実的ではないかと考えた次第です。そこで、これまでのように直に顔と顔を合わせ、グループを囲み、ディスカッションするという従来の集団精神療法学会の方法から、Web開催という新たな方法に舵を切ることとしました。Web での大会ということで不安やアクセスへの困難をお持ちの会員の方々にご不自由をおかけすることになるのは、本当に申し訳ないと思います。その一方で、安全性を重視しつつ、新型コロナ感染拡大による長きに渡る孤立を防ぎ、再び出会うことの大切さを優先したいと思いました。そしてこのWebでのリモート大会が新たな集団精神療法の地平を切り開くものとなることを願っています。
Web開催は初めての試みなので、今後大会運営委員会としては試行錯誤しながらの準備になると思います。状況は随時ホームページでお伝えする予定ですので、様々なご意見も寄せていただければ大変幸いです。集団精神療法学会の伝統に則った、皆で作り上げる大会にしたいと願っています。そしてオンライン上で皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
記
日本集団精神療法学会第38回学術大会
日時:2021年3月20日21日
開催場所:Web開催