グループの立ち上げ
二之宮正人
今回のリレーコラムは、トップに廣瀬さんの学校現場、2番の野村さんの「答えを急がず、感情を大切に」の次を承り、大変恐縮です。余談ですが、初回リレーコラムで、次は「サイコドラマで行こう」と藤堂宗継さんにお願いした経緯がありました。それからしばらくサイコドラマシリーズが続いて、興味深く拝見していました。
さて、本題ですが、最初は、病棟やデイケアで、あるグループの立ち上がるまでというようなことを想定していました。しかし、過去を、考えれば考えるほど、失敗作だったのかな?なんて考え込むことに陥りました。理解してほしいことや、想定外の展開になっていったことなど、こんな説明や配慮が必要だったのでは?と。指導ではない、何でも話せる、皆対等で、対話的なグループが行えるにはどうしたら良いか?と悩んでいました。
自分でも感じること、周囲の人らと話題になることがあります。(日本の)教育を受けた人は、先生(教壇)と生徒(座席)としての役割をよくやるのでしょうか。円になるではなく、いわゆるスクール形式(生徒たちは、黒板を背にする講師を見て、講師は教壇から、生徒達に向かって一方的に話すスタイル)になることが多いです。
(治療)グループといいますが、ホワイトボードを背にスタッフが立ち、対面に座って向かい合う患者さんに説明、指導をしている。スタッフと患者とのコミュニケーションも講義か、質疑応答形式(Aさんの質問→講師の答え、Bさんの質問→講師の答え・・・)になりますね。一方向に流れてくる講義内容か、一対一のQ&Aを他の者は延々関与もすることがない、ただただ見ているという、そういう場面です。
「話をする」ということの効果は、喜びや、達成感など、感情も変化し、主張、思考もまとまり言語化する力がアップします。「話す効果」は、たくさん機会を持つスタッフほど、だんだん話がうまくなるんでしょう(皮肉)。本来は、逆ですよね。患者さんにコミュニケーションの力や、言語化を上手くするという治療方針が出ている。でも、やっているのは、そういうことですね・・・。スタッフが一生懸命説明する(話している・・・)場面などよくありませんか?(矛盾?)
スタッフがたくさん話すのではなく、患者さんの方にたくさん話してもらうことですね。池淵恵美(2019)は「精神障害リハビリテーション」の中で、統合失調症の患者さんは、認知的特徴と育ちから、自分を貶めるパターンに、陥る。そういう生きづらさがあると述べています。そのモードに陥っているスタッフ・患者がどれだけいるでしょうか?病棟内や、グループの構造や、コミュニケーションパターンを見て、貶める役のスタッフと、虐げられる役の患者さんというモードになっていると、どれだけの人が気づいているか?ということです。
直接的な『症状』よりも、『生きづらさ』の方に困難があり、そこに扱う焦点が向けられたら良いということですが、いかがでしょう。
「感情を大切に」(前回の野村さん)ですから、安全や信用のもと、話し合っていくことから始まると思います。「薬を飲みましょう、症状に対処しましょう」といった話は、分かっているのにわざわざ言われるので、言われる側は反発することになると思います。よく観察すると、過剰適応を示す、従順な態度を示していませんか。反動形成ですね。本音や気持ちは話せていないですね。
鈴木純一(2023)より、「どうしたら患者さんたちは自由に話せるのか?」という話が、うつ病リワーク協会千葉大会シンポジウム教育講演にてありました。1960年代から続いていると言われる人権問題とも関連するでしょうか。我々スタッフは、薬を飲みましょうとか、症状に対処しましょうと言いますが、そうではなく「指摘⇔反発」を避け、患者さんの困っていることや、気持ち、その話を聞きましょう。聞いてそれから、「解釈したことを伝える」で良いのです。藤山直樹(2008)より(理由やその続きは著書「集中講義・精神分析(2008)」を参照…)。説明や説得は、医師の診察と薬剤師の説明で十分でしょう。
あと、“Beyond the Therapeutic Community”(1968)の著者であるMaxwell Jonesは「講義の反応は殆どないのに、患者同士の話し合いや横のつながりが治療的に働いていることに気づいた」と藤岡淳子(編著)(2019)「治療共同体実践ガイド」に紹介されています。この発見(エビデンス?)がWWⅡ戦中・戦後ですよ。講義よりも、患者同士皆との話しの方が、治療効果がある。さて、これは、どういうことでしょう?
また、グループというのは「魔物」でしょうか?いや「生き物」です。いろんなことが絡んでいて、不思議なことが起こります。感情が沈んだ、爆発した(○さんに向けて)。など、いろんなリスクを孕んでいます。グループをはじめるスタッフは、研修は受けておいた方が良いと思います。進め方や、起きていること、その理論などは文献も当たってみること。また、様々な精神療法家からスーパービジョンを受けるということは、なお良いと思います。研修なし文献なしの自己流・我流グループプログラムは避けた方が良いです。
最近、組織について考えるようになりました。所属先では、これから児童思春期病棟関連の準備が始まりました。その中で、花澤寿(監訳)(2023)「治療共同体アプローチ」など文献を読んでいるわけですが、病棟の1つのグループにとどまらず、病棟や病院などの組織もグループとしての視点で見ていくことが必要で、組織のありようで、問題行動へのアプローチや、経過や結果など全ての人に影響があることがわかってきました。
社会のあらゆる部門での問題行動、医療や福祉では、患者さんへの虐待問題、職員の離職問題などありますが、これらの問題に必然とされるアプローチ法であると思います。
「ストレスの時代からトラウマの時代へ」と言われる今日、職員をケアし、大事にすること、そして、利用者、患者さんの生活のあらゆる事柄が治療的であると(問題行動だとレッテル貼り、懲罰ではなく)意味づけ解釈すること。この方法は、精神療法や、集団精神療法でもそうですが、トラウマインフォームドケアでも最近注目されています。野坂祐子(2019)「トラウマインフォームドケア”問題行動”を捉え直す援助の視点」も参照すると良いでしょう。その上にグループや日常業務が安全に遂行できているのではないでしょうか。スタッフ・組織の安全の上に、治療共同体、その上に業務や治療グループがある。この三階建てをうまく構築(苦労はありながらも)できている組織が求められる(安定する)と思います。
このホームページは、一般公開ですので、医療や保健福祉に限らず、たくさんの方にご覧になっていただければ幸いです。
≪文献≫
藤岡淳子編著(2019)治療共同体実践ガイド 金剛出版
藤山直樹(2008)集中講義・精神分析 精神分析とは何か(上) 岩崎学術出版社
池淵恵美(2019)心の回復を支える 精神障害リハビリテーション 医学書院
Maxwell Jones(1968)Beyond the Therapeutic Community : Social Learning and Social Psychiatry
野坂祐子(2019)トラウマインフォームドケア ”問題行動”を捉え直す援助の視点 日本評論社
鈴木純一(2023)うつ病リワーク協会千葉大会 抄録集 シンポジウム集団精神療法 教育講演
ウォード, A., カシンスキー, K., プーリー, J., & ワージントン, A.(編)、花澤寿(監訳)(2023)治療共同体アプローチ 岩崎学術出版社
日本集団精神療法学会公式HPコラム 2024年11月
※PDFファイルで読む → グループの立ち上げ