内的にも立ち上がるグループ
大橋良枝
谷さんから熱いバトンを受け取りました。しかし、受け取りたい気持ちが先走り、中身を考えずに引き受けてしまったので、何について書こうかなと後で悩みました。考えることのできるいい機会でした。そして、一つの連続したグループの立ち上げ体験を書くことに決めました。
私は、愛着発達上の課題を持つ子どもたちと教師集団の関係性の研究の経験から、母親を支えることに目が向き、母親支援、特に発達障害や知的障害のグレーゾーンにある子どもの母親が孤立しやすいという現象に思いを馳せ、そうした母親が孤立しないためのグループの立ち上げを考えるようになりました。障害グレーゾーンの子を持つ母親たちはまず、適切な相談場所を見つけるのに苦労します。病院は予約でいっぱいで、ようやく受診できても診断をつけるほどでもないと言われる。それでも支援を求めればたらい回しにされる。クラスでは同年代の子どもたちとうまく関われないし、少し変わった子だと遠巻きにされる我が子を見て胸を痛める。ママ友にも遠巻きにされている気がして被害的な気持ちが湧く。教師も、親のしつけの問題ではと思っているように感じる(実際に思われているケースも多々)。こうした経験から病院にも福祉にも教育にも不信感を強め、敵意すら抱く母親たちがたくさんいらっしゃいます。しかし、私は少ない経験から、そうやってグレーゾーンの子どもの今や将来に対して不安で不安で仕方がないという気持ちにリーチすることが本当に意味のあることだとも感じておりましたから、そうした母親に対して同質性のグループをできないかと考えておりました。
まず、私が当時所属していた大学の学内実習機関相談室に目をつけました。地域の障害グレーゾーンの子を持つ母親向けのグループをできないか、と。人が集まりそうならやったらいいじゃない、と室長から賛成してもらいました。ありがたいことです。
しかし、人が集まりそうなら・・・。そうです、どうやってそもそも支援に不信感を持っている人たちにリーチするのか?まず私は、地域の特別支援教室の教員や、学童や放課後等デイサービスで信頼関係を構築していた施設が数軒ありましたので、そちらに相談してみました。すると、紹介したいお母さんたちはいるけれど、自分たちがチラシを渡しても応募してくれるかどうかはわかりませんとのお返事。そうだろうなあ、と思いました。チラシを渡して応募してくれる人たちは、すでに施設に信頼感を持って頼れている人たちですもんね。そこで彼らと話し合い、手渡しではなく連絡帳にチラシを入れておく、さりげなく入り口辺りにチラシを貼っておくということになりました。そして、チラシに、「子育てで悩みを抱え、それを誰にも語れなくなると、どんどん周りが敵に見える、ということが心理学的に起きる」「同じ思いを抱く母親たちと、日常から離れて話し、耳を傾ける時間を持ちませんか」と、目立つようにハッキリ書きました。私が届けたい相手を想像しながら、彼らはどういった言葉を目にしたら関心を向けてくれるだろう、と考え、施設の方々にも相談しながら。
そうして8名の方がご連絡をくださいました。驚きでしたし、嬉しかった。彼らに無料の事前面談を行いました。お仕事の都合や家族の都合などもあり、個人療法として相談室につながった人もおりましたが、結果グループが適していると思われた方は3名。ですから、もともと相談室にいらした方もお誘いして何とかグループが成立したという状況でした。実のところ少し枠を広げて、女性のためのグループ、として成立したのですけれど、それはそれで意味があるものとなったようでした。このグループはメンバーの入れ替わりなどもありつつ、私が退任した後も続いているようです。
そして今、所属の大学が変わり、すでに20年続いているという、発達グレーゾーンの子どもたちが多く集まる子どものアクティビティグループの顧問に名を連ねることになりました。そのグループの中心メンバーは子どもたちですが、私のこうした経験を知った元の顧問の先生が、来ているこどもたちの母親グループをやったらどうかと仰ってくださり、そのように始めることにしました。1年クールのグループですが、「味方になってくださってありがとうございました」と涙をこぼされる方もいらして、いかに彼らが普段孤独であるかをビビッドに体験させられました。
前任校では構造を立ち上げるために、事務的なことや内外への交渉などいろいろ走り回りました。私がグループの立ち上げという言葉を聞くと、まず浮かぶのはこうした現実的な諸々の壁を突破し、グループのための安定した構造を作ることです。しかし、今回の経験から、関東から近畿に移って、物理的な構造は確かに違うのだけれども、関東で立ち上げたものの続きとして今のグループがあるようにも感じます。これは私の内的構造を通しての体験でしょうけれど、おそらくこの構造は新たに私が入って、母親グループを始めたときに何らかの安全感をもたらすものとして寄与していたんだろうと思います。
さて、次のバトンを誰に渡そうかいろいろな人が浮かびましたが、本当にいろいろな組織や会を立ち上げてマネージしている熱い同世代の方にお願いすることを決めました(リレーエッセイに名を連ねてもらうことで、もっともっと集団学会でも頑張ってもらいたい!という願いも込めて!)。楽しみにしています!
日本集団精神療法学会公式HPコラム 2025年3月
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