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リレーコラム「グループの立ち上げ」 No.06

共に、“立ち上がる”

谷麻衣子

長尾さんからの大事な“コノツギ”を受け取って、私の2025年は始まりました。

私にとっての“立ち上げ”は「移転」そして「異動」というキーワードから始まります。数年前のX年4月、職場の(小児心療科の)“移転”により、人生で初めて“異動”というものを経験しました。そして、新たに異動先で“立ち上がった”、「小児心療科・児童精神科の子どもたちが通う)院内学級」の担当心理士になりました。「何それ?(何をする仕事なの?)」と思われるでしょうか。私も最初は「何ができるのか?」という問いから始まりました。本日はその中での気づきや学びを書かせていただこうと思います。

私は新たに“立ち上がった”院内学級へ、私はX年12月から週1日、集団観察のために訪問するようになりました。当然ながら病棟でも、院内学級でも、日々様々なことが起こります。私は何をどこから考えていくとよいのだろうかと悩みながら、ビオンのグループ理論の文献や話題となった『愛着障害児とのつきあい方(大橋,2019)』を読みふけっていました。そのおかげで、私が置かれている組織(病院側)も、院内学級も、“立ち上がりたて”ゆえに、様々なところで不安や混乱が吹き出しやすく、スプリット(分裂、対立)やスケープゴートが生じやすい状況になっているのではという視点を得ることができました。そこから集団精神療法を勉強するご縁を頂き、今に至ります。
並行して、トラウマを持った人たちに安心・安全を与えるには支援者の安心・安全が大事であるというトラウマ・インフォームドケアの概念も自分に響きました。トラウマ・インフォームドケアの話題はこのリレーコラムのNo.3、二宮さんのところですでに出ています。その中の「スタッフ・組織の安全の上に、治療共同体、その上に業務や治療グループがある。この三階建てをうまく構築(苦労はありながらも)できている組織が求められる(安定する)と思います」という一文に、何度も頷きました。このトラウマ・インフォームドケアの学校版について詳しく書かれている『学校トラウマの実際と対応―児童・生徒への支援と理解(藤森,2020)』は、院内学級にも自己紹介がてらお伝えしています。
逆に、院内学級の先生方から読んでいる書籍・使っている教材などを教えていただく機会や、立ち話でちょっとしたことを教えてもらうことも多々あります。その「ちょっとしたこと」が私にたくさんの気づきと学びを与えてくれました。医療の中にいるだけでは見えなかった院内学級を取り巻く構造、病棟と違う学校だからこその強みややりがい、そして難しさ…個々の病院・学校単位では何ともしがたいこともあり、子どもたちのために “みんなで知り、考えていく必要があるのでは”という思いも浮かびます。
一方で、院内学級の担当心理士としては自分が置かれた組織(病院)の中で、院内学級と協働の視点をいかに持ってもらうかということも意識するようになりました。子どもの精神科入院治療においては、院内学級の先生方はもちろん、院内でも主治医、看護師、コメディカルとすでにたくさんの人が関わっています。さらに病棟関係の心理士も複数人いるため、院内学級担当心理士はチーム医療の辺境にいるような感覚が日常です。しかし、だからこそ院内学級と病院ではお互いに何が見えにくく、どんな情報や意見を共有できると協働しやすいのかに考えを巡らせることも増えていきました。こうした視点で生まれたアイデアを何かある度に組織に共有していると、ある日ふと『この情報を院内学級にも共有しよう』『この話し合いには院内学級の先生方にも来ていただこう』という流れが生まれることもあり、個人レベルでは決してなしえない、“集団(組織)の力”を感じています。
そんな中で、現在の課題は“考え続ける”ことです。新しい患者さんとの出逢いも、新たな治療の契機も、凪のような日々の後、ふとしたときにやってきます。『“立ち上げ”からの数年間、集団観察の中で感じた、子どもたちのちょっとした変化や違和感は水面下で起こっている何かとちゃんとリンクしていた、あの経験を思い出せ』と自分に言い聞かせながら、3学期に臨み始めました。

こうして書いていくと、私自身も集団と共に(そして、支えられ)“立ち上がってきた”のだと思います。そして、3月の集団精神療法学会も先日申し込みを済ませたところです。学会に参加しながら“考え続ける”ことを大事に、たくさんの気づきや学びを得ていきたいと思います。
そして、私に“集団の力”と“考え続ける”大事さを教えてくださった方へ、次のバトンをお渡ししたいと思います。

≪参考文献≫
大橋良枝(2019) 愛着障害児とのつきあい方―特別支援学校教員チームとの実践
藤森和美(2020) 学校トラウマの実際と対応―児童・生徒への支援と理解

日本集団精神療法学会公式HPコラム 2025年2月

pdfファイルで読む →共に”立ち上がる”