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リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.13 ~クリエイティブアーツセラピー編④:ダンスセラピー

2024年6月30日

ダンス・セラピー

鍛冶美幸

近年、若い人たちの間でダンスが人気である。軽快な音楽に合わせ歌い踊るK-POPは、韓国のみならず、日本やそのほかのアジアの国々、そして欧米でも人気を博している。彼らのダンスを真似して踊る若者も多く、大学ではダンス・サークルにたくさんの学生が集まっている。さらには、義務教育のなかにもダンスが取り入れられ、子どもたちもダンスを楽しんでいる。なぜって、踊ることは無条件で楽しく、言葉を超えた人と人の繋がりをはぐくむからだろう。では少し年長の、たとえば中高年の方々はどうだろうか。ダンスと聞くと、気恥ずかしさを感じる人もいるかもしれない。しかし、小学校で踊ったマイム・マイムや、地域で催される盆踊りの楽しさを思い出していただければ、やはり踊ることは楽しい、と思ってもらえるのではないだろうか。 ただし、踊ることは楽しいだけではない。激しいダンスでは、苛立ちや緊張を発散できるかもしれない。寂しいとき、悲しいときに、誰かと一緒にリズムに乗って静かに体を揺らすと、自然と心が軽くなるかもしれない。ダンスは思考に至る前の体験と私たちの心を結び付ける、特別な力を持つ芸術活動なのである。それは精神分析家クリストファー・ボラスが、 「すべての人間関係で同様に、われわれは人に対する感覚を身体的に記録するのである。彼らの影響をわれわれは心身で『運び』、これが身体的知識を構成するが、これもまた思考されないのである。このタイプの知識について精神分析が多くのことを学べるのは、踊り手が未思考の身体的知識を通じて表現しているモダンダンスからだろうと、私は確信している。そして音楽表現は未思考の知と本来の思考の中間に位置づけられるかもしれない。」(Bollas,C., 1987)と述べているとおりである。 ダンス・セラピーは、文字通りダンスを介した心理療法的アプローチであり、1940年代にアメリカで生まれた。創始者のマリアン・チェイスはモダン・ダンスの指導者であり、振付家でもあった。彼女が指導していたダンスのクラスには、上達や人前での発表を目的とするわけではないのに、継続的にレッスンに参加する生徒たちがいた。彼らは、チェイスの指導で踊ることを楽しみ、そこに自己表現の機会を見出していたのである。 チェイスの編み出した方法は、とてもユニークだった。お決まりのステップや型を教えるのではなく、参加者の自然で自発的な身体の動きをリズムに乗せて、即興的なダンスとして構造化していったのだ。それは踊り手の感情表現を尊重しながら自然に展開し、踊り手の心の変化を促すものであった。この方法をもとに、ダンスを通した心理療法的アプローチであるダンス・セラピーが誕生した。 現在ダンス・セラピーは、アメリカやヨーロッパ、アジアなど、世界の様々な場所で実施されている。日本でも、精神科の医療機関や老人施設、発達障碍を持つ子供たちの療育の場などで臨床実践が行われている。グループ療法として、また個人療法としても行われ、そこでは参加者の自発的で自由な身体表現を素材にダンスが振り付けられていくため、セラピストが対象者のニーズや病理を理解していれば、心身の機能水準によらず、誰でも体験することが可能である。具体的には、その場の雰囲気に合った音楽に合わせ、セラピストが参加者の自然な身体の動きをもとに振り付けし、それを通して感情表現や感情体験ができるよう促す。また動作の雰囲気を捉えた「イメージ」が言語化され、そのプロセスを探索するのを助ける。風のように揺れたり、木の方に伸び上がったり・・・・。年齢や性別、疾患の有無、ダンス経験の多寡にかかわらず、心を込め、熱中してダンスをする様子はとても美しい。ただし、これを見たことがない人に説明するのはとても難しいものである。 ダンスこそ、百聞は一見に如かず。コラムをお読みいただいている皆さん、ぜひダンス・セラピーをご体験ください。コロナ禍が収束した今、国内でも少しずつダンス・セラピーのワークショップ等の開催が増えてきています。 今は亡きロック・スターのデヴィッド・ボウイも、“Let’s Dance!”と歌っていたではありませんか! Bolla, C. (1987) The shadow of the object. Free Association Books Ltd. , London. 舘直彦監訳 (2009) 対象の影. 岩崎学術出版社, 東京

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.13 2024年5月

※PDFファイルで読む →ダンス・セラピー