.entry-title, #front-page-title { text-align: left; }

リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.15 グループ・プレイセラピー

グループ・プレイセラピー

加本有希

みなさんは、小さい頃、何をして遊ぶのが好きでしたか?その時、誰がそばにいたでしょう? 

最近、最後に「遊んだ」のはいつでしょうか?

私は大人になってから友達に「遊ぼうよ」と誘いの連絡をした際に、「ゆきちゃんの言う『遊ぶ』ってなあに?私には一緒にお酒を飲むくらいしか思いつかないんだけど」と困惑されたことがあります。私にとって、『遊ぶ』とは、多くの場合は誰かと一緒に、時には一人で、「何かワクワクすることを、決まりなく、自由にする」ことを意味します。Woltmann(1964)は、子どもは遊びを通じて自分の経験やその時の感情を概念化し、構造化し、具体的な活動のレベルに移すことができるようになり、遊びは、当惑したり葛藤したり混乱したりするような状況を「表現する」機会を与える、としています。健康なこどもは、放っておくと本当に自由に「遊び」ます。決まった特定のおもちゃがなくとも、そこにある道具を自由に何かに見立て、自分が体験した出来事、感情、感じていることを、象徴のストーリーに乗せて多彩に伝えてくれます。こども同士の関係であれば、そこに言葉を介さずとも、感覚的にお互いの言わんとすることを受けとり、次々に自由に遊びを展開させていきます。その点、私たちは大人になると感覚的に受け取ることに不自由になってしまうようです。子どもの表現する遊びを「ありのまま」に捉えることができず、ついつい、そこに表現されるものを言葉で説明しようとしたり、起きている状況を何か特定の出来事に当てはめて言葉で解釈しようとしたりしてしまいます。プレイセラピーの技法には、こどもの体験する世界をできるかぎり損なわず、セラピストがそのまま一緒にいられるような工夫がたくさんあります(大野木,2019)。

こどもの発達を考える際、遊びは身体、認知、情緒、社会性といった発達の全側面と深く結びついていることに気がつきます(Ray,2016)。発達年齢に応じて、こどもは自分にとって必要な領域の発達を促進する遊びを好んで何度も行います。楽しく何度も繰り返す体験が熟達につながり、その領域の発達が次々と促進されていきます。

では、私たちは大人になったら遊ばなくても良いのでしょうか?

私が行ってきたグループ・プレイセラピーには、年齢を問わず、社会的な交流に乏しい方が多く参加してきました。誰かと自分自身の体験を言葉でやりとりする経験が少なく、自分自身の体験に十分繋がりを持った「生きた言葉」を使って誰かと交流することには苦手がある方が、自己表現や他者とのつながりを求めて多く参加していらした印象です。参加者の多くは、言葉で表現を求められると非常に無口で口篭ったり、焦って身体感覚に繋がらない上滑りの言葉を並べたりしてしまいますが、そうした方々も、絵やカード、ストーリー作りなど遊びを使った感覚的な表現を許された途端、非常に生き生きとご自身の体験を表現され、笑顔になり、「楽しい!」と交流が積極的になります。その様子は、今まさに表現の窓が開いたといった感じです。何も感じていないわけではないのです。感じていることを表現する手段として、彼らにとって、まだ言葉は窮屈すぎたのではないかと思います。まず表現すること、相手に理解してほしいと願うこと/相手を理解したいと望むこと、そこに交流の原点があります。体験したことを共有したいと願う根源的な想いをやりとりするために、遊びを使ったグループは非常に有効なように感じます。もちろん、言葉は非常に効率的に多くの情報を伝えます。ただ、便利すぎるが故に、失われるものも多いように思います。巧みな言語表現に惑わされ、体験を伝えると言う原点から離れてしまうことも時折あります。遊びはこどもだけのものではありません。年齢に関わらず、自分自身の体験を表現する/相手に伝える、また一緒に何かを体験・共有するための一手段として、遊びは何歳になっても有効な手段です。そして、深刻な場では許されない多少の失敗や挑戦も、遊びの中では抵抗が少なく試しやすいのも、不安が高まりがちな人にとって取り組みやすい要因の一つではないかと思います。

近年、プレイセラピーの領域でもグループアプローチに注目が集まっています。対象者の発達年齢に応じて、集団サイズや活動内容も様々に工夫が可能ですし、言語・非言語に関わらず様々なモダリティでの交流が可能となります。また、遊びの持つ寛容さの中で、人との交流やぶつかり合いを楽しく自然に体験していけることも魅力です。大人になった私たちも、心を自由に遊ばせる、生産性にとらわれない楽しい遊びの時間を持ち続けてまいりましょう!

<引用・参考文献>

・Woltmann, A. (1964). Concepts of play therapy techniques. In M. Haworth (Ed). Child psychotherapy: Practice and theory (pp.20-32). New York: Basic Books.

・Landreth, G.(2012). Play Therapy: The Art of the Relationship. Third Edition. London. Taylor & Francis. (山中康裕(監訳)『新版・プレイセラピー 関係性の営み』(2007)日本評論社)

・大野木嗣子(著)『はじめてのプレイセラピー:効果的な支援のための基礎と技法』(2019)誠信書房

・Sweeney, D., Homeyer, L. (1999). Group play therapy: how to do it, how it works, whom it’s best for. USA. Jossey-Bass Inc.

・Ray, D. (2016). A Therapist’s Guide to Child Development: The Extraordinarily Normal Years. USA. Routledge. (小川裕美子・湯野貴子(監訳) 子どものプレイセラピー研究会(訳)『セラピストのための子どもの発達ガイドブック』(2021)誠信書房)

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.15 2024年8月

※PDFファイルで読む →グループ・プレイセラピー