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リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.09 ~メンタライゼーション編③ メンタライジングとグループのエッセンス

メンタライジングとグループのエッセンス

西村馨

メンタライジングに関心を持たれる理由は、大まかに言って3種類あるように感じます。

一つは、境界性パーソナリティ症の治療に関心があるため、あるいは、愛着とメンタライジングに課題を持つ対象(例えば、虐待を受けた子どもやその家族)に関心を持っているため、あるいは、グループセラピーで起こっていることを説明する理論を模索しているため。これをお読みの方は、いかがでしょうか?

私は、二番目と三番目の中間あたりの理由で勉強を始めました。当時、子どものグループセラピーをやっていたのですが、子どもたちがよくなっていく理由をうまく説明できませんでした。スタッフが何か特別な介入をしているわけではないのだけれど、生き生きと遊び、仲間同士の関係性を深め、そこで自分の何かを表現しているようでした。しかしどうしてそれが生じるのか、どうしていくことがよいのか迷っていました。

そのようなとき、たまたま参加したアメリカ集団精神療法学会の大会で、児童・思春期のMBTの指導者、ノルカ・マルバーグによる思春期のMBTグループと出会いました。アクティビティを利用して体験を活性化したり、行動を言語的、非言語的になぞりながら体験を深める過程は、まるで自分が実践していることを説明してもらえたようでした。そう、すでにやっていることの意味をコトバにしたもの。それがメンタライジングとの出会いでした。

ここでは、子どもという文脈を少し離れて、メンタライジング全般の話をしてみましょう。

集団精神療法学会の体験グループに何度か出るうちに、いくつかの価値になじみ、それが当然だと思えるようになってきます。たとえば、アドバイスを与えるよりことよりも、その人たちの気持ちとか、行動の背後にある様々な事柄に思いをはせたり、自分の感情を率直に言うことに価値を置きます。これが、まさにメンタライジングの過程なのです。

体験グループは時間が来たら終わる。バウンダリーの感覚も大事ですが、結論を出さないこと、もう少し正確に言うと、行動目標を決めることなく、感情を出し合って、交流すること自体に意味があるという価値が共有されています。グループは、メンタライジングを実現する場だというわけです(臨床実践では、それを実現するための構造つくりや、問題行動を定式化して目標を共有しますが)。

他にも、一つのできことや個人の体験について、一つの見方だけを正解とみなすのではなく、複数の見方が許されること、一人一人の意見が尊重され、対立することや否定的な感情の表現が歓迎されること、これらはすべて良いメンタライジングの特徴なのです。

逆に、自分や誰かの発言がすっきりしなくてモヤモヤしたり、自分や誰かの、とても固定的な、確信的な考え(たいていの場合、疑いや被害感に満ちている)に揺さぶられたり、何かを「する」ことにとらわれ、感情が省みられなくなるときがあります。そのような心の状態を非メンタライジングモードと呼びますが、グループでは、誰かがそれに気づいて、プロセスを止め、ふりかえって検討することが提案されます。そこで、感じていたことが掘り起こされたり、率直なやり取りが修復したりします。途絶していたメンタライジングが回復された、ということです。

要するに、メンタライジングとは、すでに私たちがやっていることなのです。実際、あらゆる精神療法の中核的過程を特徴づけるものだといわれる一方、MBTは最も新奇性のない療法だと(謙虚に、自嘲的に)呼ぶジョン・アレン(参考文献参照)のような臨床家もいます。

しかし、MBTやメンタライジングの理論や方法論を学ぶことは、それらを踏まえた、治療構造論、治療者の姿勢、技法論を体系的に学ぶことであり、少なくとも、自分がすでにやっている臨床に別の角度から光をあてたり、新たなヒントを与えるでしょう。さらに、最初に述べた、境界性パーソナリティ症や愛着に課題を持つさまざまな人々(発達障害を含む!)のための治療論を学ぶ機会となるでしょう。実際、メンタライジングという概念は、愛着、トラウマ、神経発達症といった問題と絡み合わせられながら、さまざまな領域で語られるようになっています。MBTの理論も、力動論から始まり、愛着理論、システム論、認知行動理論、さらには脳神経科学といった現代科学のさまざまな知見をクロスオーバーさせて発展してきています。最初は圧倒されるかもしれませんが、やがて様々なことがつながって見えてきたりもします。

是非学んでみてください。

参考文献(グループについて触れているもの)

アレン他、狩野監修(2014)メンタライジングの理論と臨床 北大路書房

ベイトマン他、池田監訳(2019)メンタライゼーション実践ガイド 岩崎学術出版社

西村馨編著(2022)実践・子どもと親のメンタライジング臨床 岩崎学術出版社

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.09 2024年1月

※PDFファイルで読む →メンタライジングとグループのエッセンス