グループとの出会い/川口玲華さん (リレーコラム35)
グループとの出会い
川口玲華
私とグループとの出会いは、大学院を修了し、就職面接のためにある精神科病院を訪れた時だった。小高い丘の上にたたずむその病院に初めて訪れ、病棟で開催されていた患者-スタッフミーティングというグループを見学させてもらった。そこでは、入院中のメンバーが自身の治療の進展具合や一週間の様子についていきいきと語り、他のメンバーの一週間の様子についてコメントしていた。自分自身のことだけでなく生活を共にするメンバーへのコメントの内容は、細かいところにまで目を向けたものであったり、時に鋭く厳しいものであった。その時のグループの風景と驚きと感動は今も心に深く刻まれている。
私は、実家から遠く離れた土地への就職を心配する母親に、数年経ったら近くに戻ってくるつもりだからと話し、その病院に勤めることになった。そして、集団精神療法について学び、たくさんの治療グループに関わらせてもらった。
最初は自分が何とかしなくてはと息巻いて、メンバーにも一緒にグループを担当していたスタッフにもずいぶん迷惑をかけたと思う。メンバーから偉そうだと名指しで批判されたこともあったし、病気について説明しようとすればするほど、白けたムードが漂ったこともあった。また、あるグループではメンバーが集まらず、中止が度重なり、グループの維持に苦労したこともあった。
その時は、自信を無くしたり、つらい時もあったが、グループスタッフやスーパーバイザーなど多くの人々の助言に助けられつつ、先輩メンバーの一言でグループの雰囲気が変わっていく場面に何度も遭遇し、メンバーとともに考える姿勢が大切なのだと学んだ。中止が重なるグループも、グループの枠組みを再考するだけでなく、主治医や周囲のスタッフにも協力を求める中で、少しずつ集える機会も増えていき、グループを取り巻くその他の治療システムとのつながりを保つことも大切であることを知った。
グループを立ち上げて、成長していく時間をともに過ごせたことは私のかけがえのない経験であり、多くのことを学ぶことができた。人がグループという場の中で、他の人の発言に癒されたり、気がつかされたり、勇気づけられる。その人もまた他の人にとって癒したり、気づくきっかけになり、勇気づける存在になっていく。人ってすごいと素直に思うし、その力を引き出すグループの力は計り知れない。人が持つ力への信頼は、グループとの出会いと学びの中で培われてきた。
気が付けば、私は数年どころか20年近くの時をその場所で過ごしていた。
さて、今の私は、前の職場を退職し、別の場所で仕事をしている。残念ながら、職場の中でグループを担当する機会は持てていないが、ふっと周りを見渡してみると、家庭、職場、学校などグループはいろんなところにあって、私はいろんなグループのメンバーでもある。そこで生じる出来事を個人ではなくグループという視点で考えてみると、冷静に受け止めることができたり、新しい気づきを私にもたらしてくれる。だからこそ、グループを体験し、学ぶ機会は持ち続けていきたいと思う。
コロナ禍の今、人が集うことはしづらくなり、グループについて学ぶ機会は、対面ではなく、オンラインでのグループや研修会が多くなってきている。直接その場所に集えることは決して当たり前のものではなく、どれほど貴重なものであったかということに気づかされる。しかし、オンラインであっても人々が集った貴重な場と時間であることには変わりない。そこで湧き上がる思いを大事に味わいながら、新しいグループの形を体験していきたいと思う。
(集団精神療法学会公式HP リレーコラム 2020年9月)
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