.entry-title, #front-page-title { text-align: left; }

リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.14 Somatic Experiencing®

2024年9月25日

グループなみなさん、Somatic Experiencing®って聞いたことありますか?

水上真理子

『闘争-逃走』反応…これは、グループや個人を理解する際に使用されている、グループワーカーにとって、馴染みのある防衛反応の表現である。Walter B. Cannon (1929) によってに提唱されたこの概念は、私がこれから紹介するSomatic Experiencing® (以下SE™療法)との共通点でもある。

SE™療法を学習する以前から、この学会に所属し、グループの勉強を開始していた私は、『闘争-逃走』の概念には馴染みがあったわけだが、ただ、その当時の私の見解は浅く、大して詳しく調べもせずに、この概念はグループで使われる特有のもののように思い込んでいたところがあった。SE™療法のトレーニングを受け始めた10年以上前、私は、この耳馴染みのある言葉がグループ場面以外でも使われていたことに新鮮な驚きを覚え、同時に、学び始めたばかりのSE™療法に親近感さえ抱いたものだった。私の防衛反応についての理解は、それまで認知的イメージに偏り過ぎていたことがあり、SE™トレーニングで学ぶことを通して、より深まったように感じている。どのように深まったかというと、それら防衛反応がEmbodyされた、つまり生物としての私が防衛とはどのように心身に現れ、それはどのような状態なのかということを、自らの身体反応を以て理解できたという体験があった。そして、私のその体験は、当然、その後の他者理解へと繋がるものとなった。

SE™療法は、Peter Levineによってトラウマ療法として開発された手法であるが、実際の臨床では、トラウマのみならず、自律神経系の調整不全全般に対応すべく幅広く活用されていると言ってよいだろう。SE™療法は、Levineによって動物行動学や神経生理学などの叡智が込められ発展してきたものであり、同時に、Levineの長年の友人であり同僚でもあったStephen PorgesとのディスカッションがSE™療法の躍進に大きな影響を与えたという逸話もある。2人が互いのデータを突き合わせ、それぞれの練磨の末、Porgesはポリヴェーガル理論を世に送り出し、LevineはSE™療法をトラウマに対する治療法として確立させたとのことだ(Levine, 2018)。

では、SE™療法とは一体どんなものであるかというと、トラウマ症状の改善及び慢性的ストレスの軽減を目的とした心理・生物学的な方法であり、トラウマからくるストレスに対処する能力の向上を意図して作られたものである。『闘争・逃走反応や凍りつき』反応に働きかけ、既存のパターンの転換、回復力の強化を目的として行われている(SEI監修PP)。そして、現在、SE™療法は、医療機関や福祉施設、個人開業のカウンセリングルームのみならず、NASA(アメリカ航空宇宙局)など、幅広い現場において盛んに活用されている。

もともとは、個人療法の中で展開されてきたSE™療法だが、世界各地で、そのエッセンスを取り入れたグループも行われており、私自身も子どものグループに適用している。子どもの言語獲得や広がりゆく表現は、その場面に遭遇すると感動が引き起こされるものだが、もちろん年齢や発達段階ごとに言語表現の限界もある。SE™療法は、身体感覚などを通しての、いわゆるボトムアップのセッションが中心になるため、言語に頼りすぎないアプローチが可能となる。それはまるで、SE™療法のアプローチそのものが、臨床現場では新たな言語の役割を果たしてくれているかのように、私には感じられることも多い。

成り立ちは科学的根拠に基づいており、もちろん私たちがセッションで起きていたことを理解するためにはポリヴェーガル理論など、神経生理学に参照を求めることが多いSE™療法だが、セッション自体は非常にアートである。SE™セッションでは、まるでクライアントとプラクティショナーの神経系のダンスのような時間でもある…というのは、あくまでも私の個人的な印象に過ぎないのだが、そこで起きていることは、とても有機的で、その瞬間にそこに居合わせた人との間でしか共有できないこともあり、時には、思わぬ着地に至ることもある。そういった意味では、グループも私にとってはアートである。今回は、ここでSE™療法の紹介をするはずが、SE™療法もグループもアートだという結論(個人の感想?)に至ったところは、コラムらしくてなかなか良いな…と、気に入っている。その一方で、読み手はどうだったのだろうかと考えないわけではないが、SE™療法の風が、少しでもこれに興味のある方に届いていることを願うしかない。

参考文献

1 hour presentation ©Somatic Experiencing Trauma Institute(SEI監修PP資料)

Cannon W B. (1927) Bodily Changes in Pain, Hunger, Fear and Rage-An account of Recent Researches into the Function of Emotional Excitement

Levine, P. ; Porges, S W. & Dana, D, Clinical Applications of the Polyvagal Theory: The Emergence of Polyvagal- Informed Thrapies (2018) 花丘ちぐさ訳 ポリヴェーガル理論 臨床応用大全 ポリヴェーガル・インフォームドセラピーのはじまり(2023)東京

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.14 2024年7月

※PDFファイルで読む →Somatic Experiencing®