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「オンラインでサイコドラマを成立させるための要件」についての試案/大島朗生さん (リレーコラム41)

2021年11月14日

「オンラインでサイコドラマを成立させるための要件」についての試案

大島朗生

はじめに

 筆者は集団精神療法の1つであるサイコドラマを専門としています。(サイコドラマがどのようなものなのかについては、藤堂宗継先生がお書きになられたリレーコラム37などを参照してください。)COVID-19の影響で、2020年は対面でのサイコドラマがなかなか開催できない年になりました。そのような中、筆者は2020年8月以降、仲間と共にオンラインのサイコドラマを試行錯誤しています。この小論では、現在考えている「オンラインでサイコドラマを成立させるための要件」についての試案を提示したいと考えています。個々のお名前は出しませんが、基本的には筆者のオリジナルというよりも、仲間と共に練り上げている途上のものです。今後は、皆様との意見交換を通じてさらにブラッシュアップしていきたいと考えています。

 

要件1 ”舞台”があること

 オンラインでサイコドラマを行う際に、筆者らが意識しているのは、”舞台を設定する”ということです。サイコドラマの治療構造を考える際に、「サイコドラマの5つの基本要素(Moreno, 1962)」として知られているものがあります。1.主役(protagonist)、2.監督(director)、3.補助自我(auxiliary ego)、4.舞台(stage)、5.観客(audience)の5つです。主役、監督、補助自我、観客 の4つは人的要因であるのに対して、舞台は環境要因です。サイコドラマを行う場合、サイコドラマの責任者ともいえる”監督”が準備できる要素は環境要因としての”舞台”だけなのです。

 筆者らはオンラインのビデオ会議システムとしてZoomを用いています。参加者には、①家族や他の人に聞かれる心配がない環境からのアクセスの推奨 ②PCでの参加の推奨 ③録画・録音の禁止 という3点を事前に周知しています。2021年2月時点のZoomの設定では、「ホストのビデオの順番に従う」というチェックボックスがあります。Zoomにアクセスしたら、ホストはチェックを入れて、参加者の画面表示をホストの画面表示と同じ順番にします。ホストは、参加者に「ギャラリービュー」にするように伝え、「マイビデオをミラーリング」「ビデオ以外の参加者を非表示にする」という2つのチェックボックスにチェックを入れるように伝えます。

 サイコドラマのドラマフェイズに入ると、”監督”はオンラインの空間に”舞台”を設定するために、主役と監督と補助自我の3名以外の参加者に対してビデオをオフにするように伝えます。この操作で、画面上に3名、画面外に残りの参加者が配置されることになります。つまり、画面上がそのまま舞台上となるのです。画面外で画面を見守る参加者は、”観客”という役割を担うことになります。舞台を設定することで、舞台上の演者たちと舞台外の観客たちを分けることができるのです。”舞台”という設定をはっきりさせることで、セッションの中心となる”主役”に焦点が当たりやすくなるといえます。

 現在は、筆者らは操作に慣れてきているのでZoomをつかっていますが、将来的には”舞台”というものをよりはっきりさせることができるサイコドラマに適したプラットフォームが登場すれば、もっとオンラインでサイコドラマを実施しやすくなるでしょう。

 

要件2 ”アクション”があること

 サイコドラマの特質は、アクションがあることです。対面でのサイコドラマでは「あなたが感じていることを、言葉だけでなく身体全部を使って表現してみましょう」と促します。しかし、オンラインではカメラに映る範囲という制約があるため、基本的には身体全部を用いて何かを表現するということは困難になります。どうしても、監督は演者の顔を観察して情報を収集し、状態を判断することが多くなります。また、参加者も時々は画面を見ないと、相手に自分がどう映っているのかを把握することができません。参加者がアクションをし続けるというのは、構造上難しいのです。

 それでは、どのようにオンライン上で”アクション”を表現すれば良いのでしょうか。筆者らは「”役割”を”画面の位置”として指定すること」を考えています。例えば、主役と監督と補助自我の3名を画面上に残した場合、画面の上段左の位置を”主役”、上段右の位置を”補助自我”、下段の位置を”監督”の位置であると指定します。ドラマフェイズでは、適宜、監督は「リバースロールズ」といって、”主役”と”補助自我”の位置にいる人物を画面上で交換します。このプロセスは、実際の対面で行うサイコドラマのロールリバーサルと同じです。視覚的な動きを導入することで、演者たちだけなでなく参加者も何が今展開しているのか把握しやすくなります。画面の位置を入れ替えるというアクションを見ることを通じて、主役はさらに洞察が深まります。これがサイコドラマにおいてアクションが大切な所以です。

 

要件③ 監督がグループに対してディレクティブに振る舞うこと

 サイコドラマとは別に、オンラインで言語のグループも行っています。ある時、言語のグループを一緒に運営しているスタッフから「グループでは、コンダクターは30分ほど黙っていてから発言するものなんですか」という質問を受けました。2回ほど続けて、冒頭の30分ほど黙ってグループの様子を考えてから「今、このようなことがグループで起きていると思いますがどうですか」という介入をしました。そのため「コンダクターは30分程度は黙っているものだ」と誤解されたのでしょう。質問されて初めて、オンラインでのグループでは、対面でのグループとは違って、グループで何が起きているのかを理解するために対面時よりも多くの時間を必要とすることに気づきました。

 一方、サイコドラマのグループをオンラインで行う場合は、対面で行う時と変わらずに、グループの冒頭から積極的に関わるようにしています。グループに対してどのように関わるかというスタンスはコンダクターやディレクターによって異なるでしょう。筆者の場合は、サイコドラマのグループを行う場合は、「グループを観察して、グループで生じていることをある程度理解してからかかわる」というよりも「グループに関与しながら、グループで何が生じているのかを理解しようとする」というスタンスを大事にしています。このグループに対するグループリーダーの能動性、すなわち”ディレクティブであること”がサイコドラマをサイコドラマ足らしめるのだと考えています。

 

終わりに 〜オンラインでサイコドラマは可能か〜

 いろいろな見解はあると思いますが、「オンラインでは身体性が欠如する」という指摘があります。オンラインでは、触れたりすることができないだけなく、視線すら一方通行になりやすく交差することすら難しいです。この「身体性の欠如」という課題は、身体性を最大限活用するサイコドラマにおいては致命的であるといえます。しかし、個人的には「オンラインでもサイコドラマは可能である」と考えています。対面のサイコドラマとは異なりますが、オンラインであっても舞台を設定し、アクションを用いて、監督がディレクティブにグループに関わることで、主役となった人の情緒が動くという体験をしています。この体験は、「対面でのサイコドラマと同じ体験」とまでは言えませんが、「サイコドラマならではの情緒体験」であると感じています。

COVID-19で、私たちの生活は一変しました。オンラインツールは、「対面での交流が復活するまでのつなぎ」だと感じていた人も多いと思います。しかし、オンラインのツールは、もはや対面のツールと並行して残り続ける1つの交流様式であるように感じています。オンラインと対面の違いを、「造花と生花の違い」と例えた方がいますが、個人的には、オンラインと対面の違いは、「冷凍食品と手作り食品の違い」のようなものだと考えています。冷凍食品の登場で、私たちの食生活は一変しました。もはや冷凍食品を一切使わない食生活というものは考えられないでしょう。冷凍食品は手作り食品の単なる代替物ではありません。併用することで私たちの食生活をより豊かにしてくれるものなのです。

私たちは対面という方法論に加えて、オンラインという新たな方法論を手に入れることができました。2つの方法論を組み合わせて使うことで、グループというものはさらに厚みを持ちより豊かなものとなることを確信しています。

 

〇引用文献:Moreno,J.L. 1962 Psychodrama Vol.1.(3rd Edition). N.Y.:Beacon House.

 

(日本集団精神療法学会公式HPリレーコラム2021年3月)

※PDFファイルで読む → リレーコラム41 「オンラインでサイコドラマを~」 / 大島朗生