「“アウェイ”を感じながらグループにいること」
片上絵梨子
第43回大会運営事務局のつながりで高橋さんからコラム執筆のバトンを受け取った。「グループと私」から連想されることというお題を頂き、まず思い浮かんだことは、今回の大会テーマ決定までに丁寧に意見交換を重ねてきた運営事務局というグループのメンバーであった。言葉のニュアンスの違いや伝わり方について慎重に検討しながら“私”を先に持ってくるとどうか?などと様々なテーマ候補を挙げていき、一度まとまりかけても、また「いや、こんな意味も持たせたい」「こんな風に捉えられないか?」と更なる議論を重ね、辿り着いたテーマが「グループと私」である。
実は私は学会に入会してまだ一年も経っていない。集団精神療法に興味を持ち、学び始めたばかりの頃、第43回大会長から「大会運営委員会も一つのグループ。グループのことを学びたいなら貴重な機会になるのでは」とお声かけ頂き、第43回大会運営事務局として携わらせて頂くことになった。初めて参加した群馬での学会大会の夜、顔合わせの会が開かれた。事務局のメンバーが次の大会を有意義に時間にするために、と語る中で企画案やアイデアがどんどん膨らんでいく。メンバーが過去の学会大会での体験や学会のこれまでを共有しながら熱く語る熱量(と話しながら消費されていくアルコール量)に圧倒されながら、ただ聞き入っていた。その時は、学会活動歴に大きな差がある自分がこのグループに入っていけるのか?と少し不安に思うと同時に、入会して間もない私を抵抗なく迎え入れてくれるなんて不思議なグループだなぁ…とぼんやり考えていた。
その後、大会運営委員のメンバーも決まり、大会運営委員会としてもう少し大きなグループへと拡大して着々と準備が進んでいく。委員会で「あの時の学会のこれが良かった」「こんな風にできたらより良いのでは?」と次々に挙がる話題から活発な議論が進んでいくが、過去一度しか参加経験がない私は、過去大会の企画やプログラムの様子のイメージが浮かばず、ピンとこないまま何とか議論についていくことが精一杯になる場面もあった。しばしば、私はこのグループの中にいるのだろうか?という疑問が自分の中で生まれ、普段はスポーツ分野の学会を“ホーム”としている私にとって、これまでの学会活動では経験したことのない“アウェイ”感のようなものを感じた。しかし、不思議なことに、その “アウェイ”感は、グループから疎外された気持ちや今後グループに関わることへの不安ではなく、この中で私は何を感じ、どうなっていくのだろうかという、観察を少し楽しむような気持ちだったりもする。そのような事を考えつつ、ふと、“ホーム”であるスポーツ分野での「グループと私」について考えてみると、2つのことが思い浮かぶ。
一つは、スポーツ競技集団の中にいる「私」である。私は普段、スポーツ現場にてアスリートやチームを対象とした心理支援・研究活動に取り組んでいる。チームサポートでは、アスリートとの個人心理面接だけではなく、コーチや保護者、医科学スタッフなどアントラージュと呼ばれるアスリートを取り巻く人々と連携しながら関わっていくことが求められる。チームサポートの枠組みの中でのアスリート支援には、集団の中で何が起こっているかを理解し、必要な対応を見極めていく力が必要になる。スポーツ集団の中で心理専門職として機能するためには、常に変化していく状況に対応していく力も必要となり、グループ体験や集団精神療法について学ぶことが役立つと考えている。
二つ目は、大学の体育における「私」である。もう一つの仕事として、大学で体育関連授業を担当している。全学共通の教養科目として開講されるため、学部専攻、学年、運動経験、参加動機の異なる30名が一つのグループとして活動し、技術練習や小グループ対抗の試合を行う。毎年概ね同様の計画で実施している授業であるが、こちらが同じように進めても、学生一人ひとりの個性やその個性が関わり合う中で作られていく集団の雰囲気はそれぞれで、どのクラスをみても一つとして同じ展開はない。注意深くグループで生じているやり取りを見てみると、例えば、集団での協働を得意とする看護や児童学専攻の学生が率先してフォロー、盛り上げる声かけによって、試合での失点後の雰囲気が変わり、学期後半になるとその行動がクラス全体で共有され定着していることがある。体育・スポーツを通して出会う他者との体験が、運動への態度、心身の健康への興味そして運動習慣の形成に与える影響は大きい。集団の動きを理解しながら、グループを立ち上げいくことが教員の役割の一つではないかと思っている。
この原稿を書きながらグループを学びたいと思った原点でもある “ホーム”での体験を振り返り、今はまだ“アウェイ”に感じている新たなグループでのこれからを楽しみに思う自分にも気づきつつ、次にバトンをつなぎたい。
日本集団精神療法学会公式HPコラム 2025年10月
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