「作業療法とグループとわたし」
小野塚美和
今回は作業療法士の視点から“グループの立ち上げ”について、書かせていただきます。
『ゆるカフェ』グループの誕生
外来患者さんのグループの一つとして発達障がいの方を対象とした集団精神療法のグループをDr、CP、OTと協働して行っていましたが、その中でメンバーから「人と話すことは苦手だけど人と関わりたい」「一人が安心できるけど人がいる場所に継続して行ってみたい」などの声が上がっていました。自分の中で悶々と葛藤し続けている外来患者さんがいるということに改めて気づかされ、そんなグループを作ってみようと思ったきっかけで『ゆるカフェ』グループが誕生しました。
このグループは人と場を共有することが目的であり、やることは決めなくても良い、と銘打って始めましたが、もともと対人緊張が強い方々の集まりのため、グループが始まってもずっと沈黙が続き、スタッフにとっては苦しい時間でした。BGMの音楽だけが室内に響いている、という状況に耐えきれなくなった私を含むスタッフが話しかけたり、スタッフの中に美術講師がいたこともあり、絵を描いてみないかと勧めたり、スタッフが率先して絵を描いてみたり、と何とか場を繋ごうと必死になっていたのを覚えています。しかし、少しずつ場に慣れてくると、こちらが促した“作業”(ここでは、絵画や手芸など)に取り組んでくれる方が出てきました。一人二人が取り組みだすと自然と「じゃあ私も」とその輪は広がっていきます。
グループを通して再認識できたこと~これから
グループの終了時には参加者一人ずつ(もちろんスタッフも)感想を言うのですが、「話が少しできたので良かったです。また来ます」「ゆっくり過ごせました」と言う方、話す言葉が浮かばずに下を向いてしまう方、とさまざまな方法でその時々の気持ちを表現してくれました。一人一人のその表現にスタッフはとても大きな力をもらっていました。回を重ねるごとに毎週同じ顔ぶれが来ることの安心感、欠席が続いた後に参加した際に『久しぶり』と声をかけてくれるメンバーがいることの嬉しさ、などが次第にメンバー間に芽生えてきて、目に見えてグループが作り上げられていく様子をメンバーもスタッフも体験してきました。
作業療法士であるがゆえに、どうしても“作業”をグループの中に入れてしまいたくなります。そもそも作業療法における“作業”とは何か?ですが、世界作業療法士連盟では『人が自分の文化で意味があり行うことのすべて』としています。これは単純に日常生活や仕事に関連する活動のみならず、ひとの暮らし(生活)における「ゆとり」や「うるおい」という意味においても大切な役割を果たしている¹⁾と山根は言っています。『ゆるカフェ』においてもこの考えは根源にあり、「ゆとり」や「うるおい」の多くは余暇活動から得られることが多く、余暇活動を通して対人交流を促す・・これこそが作業療法の醍醐味だ、と強く実感しています。
少し話がずれてしまいましたので、もとに戻しますが、グループの凝集性が高まってくると、良い事ばかりではなくそのグループの中でいざこざも起きます。メンバー同士のメールのやり取りで傷ついたとスタッフに相談してくるメンバー、グループの中で自分の悪口を言われているのではないかと相談してくるメンバーなどなど。グループが誕生して10年以上経過しても、メンバーが入れ替わろうとも、その時々で同じように起こる問題です。これらの問題に対して、私たちスタッフはグループで取り扱うことはせず、個別に対応してきました。なぜそうしてきたのか?それは、グループが揺れ動いていく様をメンバーと一緒に体験する怖さや恐れが自分の中にあったことが大きかったと思います。
グループの中ではスタッフも一人のメンバーとして、その時の感情を意識しながら今起こっている事象に向き合う、ということをもっと丁寧に行っていくことが大事だなと改めて感じています。生きていく中で人との交流を深めていくと必ず起こる相手とのすれ違い。それをグループの中で取り上げ考えていく中で、互いを尊重しながら相手も自分も大切にしていくことを経験していく、ことまでをもOTグループで実践できるよう私自身がもっと研鑽していかなければ、と思っています。
現代はコロナ禍を経てますますICT化が進み、人と人とが直接顔を合わさずとも生活が成り立つ時代になりました。そんな時代だからこそ、あえて人と人とが場を共有し多様な人がいることを認識し、グループを通して人の温かみが知れるようなグループを目指して、日々患者さんとともに“作業”を用いてグループしていこうと思っています。そのためには自分自身がおそれずに目の前にあることに向き合い、行動を起こすことからですね。Let’s Try!
引用文献
山根寛 (2015) ひとと作業・作業活動 作業の知をとき技を育む 新版 pp.24-30 三輪書店
日本集団精神療法学会公式HPコラム 2024年12月
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