理事長からのメッセージ

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新型コロナウィルスの感染拡大を受け、当学会理事長からのメッセージを掲載します。
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  日本集団精神療法学会理事長からのメッセージ

 このメッセージをお届けする現在も、多くの方々が新型コロナウィルス(COVID-19)感染のニュースに不安な日々をお過ごしのことと思います。不幸にして亡くなられた方々、そのご遺族、ご友人の方々には、謹んで哀悼の意をささげたいと思います。また、今まさに過酷な症状に苦しんでおられる方々、陽性と告げられ不安の中におられる方々には、一日も早い回復をお祈り申し上げます。

 一般社団法人日本集団精神療法学会では、COVID-19感染の拡大防止のため、本年3月21日から22日まで予定していた第37回学術大会の大阪経済大学での開催をとりやめ、抄録集での誌上開催といたしました。大会会場での発表を準備されていた方々、さまざまなプログラムへの参加を楽しみにされていた方々には、大変心苦しく思っております。
 また、感染拡大の時期が大会の直前であったため、中止の決定がギリギリになり、会議費や抄録集の編集・郵送費、海外からの講師の招聘にかかる経費などがすでに発生していたため、参加費を事前納入して下さった方々への返金はできなくなってしまいました。やむを得ないこととはいえ、多大なるご負担とご迷惑をおかけいたしましたことは大変申し訳なく、深くお詫び申し上げます。
 なお、今年度の代議員会や総会も、いまだ開催できておりません。問い合わせたところ、今年はどの法人も特例として、社員総会(代議員会)などの延期が認められるとのことでした。COVID-19の感染が終息し、開催が可能となり次第、お知らせしたいと思います。

 ところで、第37回学術大会では、古賀恵里子大会長からのお知らせにも記されているように、集団精神療法の真髄ともいうべき「治療共同体」に光を当て、大会そのものを「一時的コミュニティ」として、参加されたみなさまに実際に体験していただこうという、たいへん斬新な企画を準備してきました。その実現の可能性が断たれた企画運営委員会メンバーのショックと落胆の大きさは申し上げようもありません。
 ですが、企画運営委員会では、Rex Haighさんの特別講演や、Robert Hinshelwoodさんの講演と鈴木純一先生のビデオ対話が予定されていたシンポジウムなど、今回の企画のエッセンスを少しでも皆様にお伝えしたいと、学会誌の学会特集号にHaighさんの特別講演の原稿を掲載し、参加費を前納された非会員の方々には別刷をお送りすることにしました。また、すでに収録済みのシンポジウムのビデオは、いずれみなさまと共有できるよう、現在、検討を進めているところです。一刻も早く、感染が終息し、直接お会いできるようになることを願ってやみません。

 さて、今回のCOVID感染症は、予想をはるかに超えたスピードで拡大しています。昨年12月に中国武漢から「原因不明のウィルス性肺炎」の発生の知らせが届いた時はむろんのこと、1月末に武漢からのツアー客を載せたバス運転手の感染が報道された時も、2月に入って横浜に寄港中のクルーズ船ダイアモンドプリンセス号の船内感染が伝えられた時も、多くの人々にとっては文字通り「対岸の火事」のようであったのではないでしょうか。
 以来、感染は日本全土に拡がり、4月16日には全国に緊急事態宣言が出されるまでになりました。さらに海外でも、感染はアジアからヨーロッパ、北米へと移り、現在はアフリカや中南米諸国が脅威にさらされています。私はこの急激な感染拡大に、いかに地球上の人々が密接につながりあって生きているのか、自分がいかにそのことに無自覚であったかということを改めて突き付けられたように感じました。
 そして、今や「ソーシャル・ディスタンス」という言葉が毎日のように強調されていることにも、集団精神療法にたずさわる者としてある種の皮肉を感じます。これまで、人と人とのつながりが人間の生存や回復にとって何よりも大事なことと言い続けてきたのですから。
 WHOは、この言葉を「フィジカル・ディスタンス」と呼び変えることを提案しています。つまり、今必要なのは「物理的・身体的距離」をとることであって、人と人との「心理的な距離」ではない。むしろ、物理的距離をとらざるを得ないときだからこそ、人と人との心のつながりcompassionが重要だというのです。
 実際、接触を禁じられた人々は、どうにかして互いにつながろうとしています。海外では窓にメッセージを書いた紙を貼り出したり、ベランダに出て医療の最前線で感染症と戦っている医療者へ一斉に応援の拍手をしたり、音楽を奏でたりといったアナログ的なつながりが各所で見られています。また、インターネットを通じたデジタルなつながりも拡大し、海を隔てた私たちも世界中の人々のそうした動きを同時に知ることができます。やはり、人間はつながりを求めて生きている存在なのだとつくづく思います。
 私自身もwebを用いてビデオ会議をしたり、web講義の準備をしたりで、毎日忙しくしています。休止中の体験グループも、オンラインで再開することにしました。つい最近までは、オンラインの精神療法なんて邪道だというくらいに考えていましたし、少なくとも自分には関係ないことと思っていました。自分でも驚く変わりようです。まさに危機は成長や変化の好機でもあることを実感しています。
 とはいうものの、やはりこうした変化の中で、何が大切なのか、そうでないのかをしっかり見極めていかなくてはならないでしょう。ついつい便利な解決策に流れがちですが、「それでいいのか?」「誰のためになっているのか?」「取り残されている人がいないか?」などと問い直しつづける必要があります。そのためにも、さまざまな人が感じていることや考えていることがフィードバックされる場や仕組みが重要です。
 この学会の活動がそうした面でも貢献していければと願っています。そうして皆さんと手をたずさえながら、何とかこの苦境を乗り越えていけることを信じています。

 一般社団法人日本集団精神療法学会 理事長    武井麻子

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