リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.01 ~サイコドラマ編①~
サイコドラマの技法
【シェアリングについて】
高橋美紀
サイコドラマの技法ということで当学会のリレーコラムのトップバッターを仰せつかったわけだが、さて何を書けばいいものか。
サイコドラマについての本は何冊も出ているし、サイコドラマの体験が無い方でも教科書的な知識をお持ちの方も多いだろう。それは以下のようなものかもしれない。
1) 即興劇を用いた集団精神療法である
2) そのためグループリーダーはディレクターと呼ばれる
3) 主な技法は「ダブル」「ミラー」「ロールリバーサル」
4) サイコドラマの五つの基本的要素とは「主役」「監督」「補助自我」「舞台」「観客」である
5) サイコドラマには「ウォームアップ」「ドラマ」「シェアリング」の三つの段階がある
といったところだろうか。
残念ながら、この箇条書きだけ読んでもサイコドラマで何をするのかはさっぱり分からない。とはいえサイコドラマはグループを取り扱いつつ主役のドラマを構成するためにたくさんの技法があって、限られた紙面の中でそのすべてを語るわけにもいかない。
そこでここでは私がサイコドラマの中でとても好きで、大事にしている要素のひとつ「シェアリング」について少しばかり書き記そうかと思う。
辞書を引くとシェアリングとは「共有すること」「分かち合うこと」と出てくる。2023年現在、「シェアする」という言葉は日常のやり取りの中にもかなり浸透しているように思われる。
だが私がサイコドラマを始めた30数年前には、シェアという言葉をサイコドラマの場で初めて聞いたメンバーは少なくなかったし、その意味もきちんとは把握されていなかった。年配者の昔話で恐縮だが、バブル崩壊前後にカジュアルなイタリア料理が流行り(イタ飯と呼ばれてました)ひと皿の料理をテーブルの皆で分け合うことを「シェアする」と言い出したのが、この言葉が一般に広がりだしたきっかけではないかという気がする。
笑い話ではなく、いや笑い話かもしれないが、私自身初めてサイコドラマを体験する方にはシェアリングを説明するときには「一つの料理を皆で取り分ける時シェアするというでしょう」というフレーズから入っていた時もあって、またその説明がいちばん理解していただきやすかった。今では言葉の意味を説明する必要もあまりなく、何をするのかを解説するだけでOKという…ずいぶん楽な時代になりました。
閑話休題
さてシェアリングだが、上記の5)にあるように、サイコドラマセッションを構成する三つの段階の最後に設けられるのが「シェアリングの段階」である。
ご存じない方のために簡単に記すが、「シェアリングの段階」とは、「ドラマの段階」が終了しドラマの主役がグループに戻った後、グループメンバー各人がドラマの段階で補助自我として体験したり、観客として見聞きする中で揺り動かされ、思い起こされた自分自身の感情や経験について語る場である。ドラマに対する感想や主役に対するアドバイスではなく、発言者自身について語ることが求められる。ドラマの内容やセッションの時間的制限などの事情によっては、グループのシェアはアクションによって表現されることもある。
いずれにしろこの段階を充分に行うことがグループをグループとして機能させ、サイコドラマを集団精神療法たらしめることになる。
だが実のところこのシェアリングの精神は「シェアリングの段階」だけではなく、サイコドラマのセッションのはじめから終わりまでを貫いていると私は考えている。
一度でもサイコドラマを体験した方はご存じだろうが、「ウォームアップの段階」から参加者は自分自身の今ここでの感情や体験をグループに対して語ることを求められる。
そうして語られた事柄は値踏みされたり矯められることなく、グループに受け取られてゆく。この共有する体験を重ねることで、グループメンバーはお互いを受け入れ、感情を分かち持ち、安全に「ドラマの段階」へ移行する準備が整う。
更に「ウォームアップの段階」で培われたメンバー同士のこのつながりは、「ドラマの段階」でも引き続きドラマを行う主役を支える重要な土台となってゆくのである。
シェアをする-分かち合う-ことで、サイコドラマのセッションでは誰が年長者であるか若輩であるか、社会的立場があるか無名であるかは意味を持たなくなり、参加者は皆等しく感情を持つ一人の人間として、主役をした人もそうでない人もその感情や体験を一期一会のセッションの中で分け持つことを可能になる。
このことが多分一番初めに私がサイコドラマにたまらなく魅力を感じた理由のひとつであって、今も大事にし続けているものなのです。
さてここまで読んだ方(どうもありがとう)でお気づきの方もいると思うが、このコラムの中ではサイコドラマで用いる用語や概念はほとんど説明していない。もしも興味をお持ちなら、一度だけでも体験してみていただければ嬉しく思う。
いつかどこかのサイコドラマワークショップでお目にかかりましょう。
日本集団精神療法学会公式HPコラム No.01 2023年5月)
※PDFファイルで読む →リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」No.01(高橋さん)