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リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.02 ~サイコドラマ編②~

2023年8月8日

サイコドラマの現場から

藤巻加奈子

 

(1)サイコドラマの実践領域

「心理劇入門-理論と実践から学ぶ」(日本心理劇学会監修,2020)には、サイコドラマの実践領域として、教育・福祉現場、心理社会的支援、精神科医療現場、対人援助職養成が挙げられている。

私の周囲のサイコドラマティストたちに「今、現在どのような領域で実践しているのか?」と聞いたところ、精神科デイケア・復職支援(一般精神、成人発達障害)、行政機関や福祉専門職の研修、子育て中の母親支援、精神科の地域の家族会、ディレクターになるためのトレーニンググループ、一般対象の体験グループ・治療グループなどなど、様々な領域で活動をしているという回答があった。コロナ禍以降、対面だけでなくオンラインでの実践も行われている。おそらく、ここにあがった領域以外での実践も行われているであろうと思われる。今後、サイコドラマの実践領域がさらに増えていくことを願っている。

 

(2)実際の現場から

私は、精神科単科病院の大規模精神科デイケアのプログラムの一つとしてサイコドラマ を実践している。このプログラムは20年近く前から実践されており、私は5年前から関わっている。週一回午後、老若男女10人強のメンバーが参加し、ウォーミングアップ、ドラマワーク、シェアリングの3つの段階を踏んだセッションを行なっている。目的は「言葉だけでなく身体表現をすることを通して、自分自身の事を振り返ったり、グループメンバー同士で体験を分かち合ったりして、これからの人生に希望が持てるようになれたらよい」としている。

この原稿を依頼された時期にちょうど、新しく他部署から異動してきたデイケアスタッフAさんがセッションに参加した。初参加の方や実習生などがサイコドラマを知らない人が参加した時には、先輩メンバーから「サイコドラマとは?」「私はなぜサイコドラマに参加しているのか?」など、それぞれの思いを言語化し、体で表現するワークから始めることが多い。今回のセッションでは、「サイコドラマのことをほとんど知らないAさん」を前にして、「サイコドラマについて紹介して、サイコドラマに興味を持ってもらおう!」ということがテーマとなった。メンバーはそれぞれに、「自分の思うサイコドラマはこういう場所で、こういうことがある」と言葉にした後、アクションで表現し、Aさんに伝えていった。

言葉や文章だけでセッションの様子を紹介するのはとても難しい。デイケアの中でも「サイコドラマって何?」と興味はもっても、参加までは至らない方も多い。そういう方への宣伝もかねて、このセッションの様子を写真撮影し、コメントカードの作成をして、デイケア所内に掲示するポスター「サイコドラマへようこそ!」として作成することとした。メンバーからは自分たちの表現を多くの人に見てもらいたい要望や動画で作ったらどうかという意見も上がった。この文章を読んでくださっている皆さんに、このポスターを見ていただく機会があったら、彼らはきっと喜ぶだろう。

このセッションのなかでは様々なコメントとそしてアクションが披露された。このコメント等を紹介するにあたっては、研究倫理ガイドラインに沿って、当院の倫理委員会での承認を受け、参加スタッフ、メンバー本人に個人情報の保護、倫理的配慮、オプトイン・オプトアウトの説明を行い、書面にて掲載の同意を得た。また、個人が特定されないよう若干の修正を加えている。【氏名(経験年数):「コメント」<アクション>】

 

Bさん(6か月):「サイコドラマとは個性の表現だ!自分の表現のバクハツだ!」「考える前に感じろ‼」<胸の前で右腕の力瘤を見せる。手の中に「個性」がある>

Cさん(6か月):「自己表現の場である」「自分の恥を捨てる場所」「サイコドラマの後は心がスッキリしている」<胸を開いて両手を90度に開いて見せる>

Dさん(3年):「題名のない即興劇、それこそ、音楽のように、体も自由!」「普段はかくしているコト、意識しないことを表現していくカンジ」「とりあえず動いてみる。心はそこにある」<小さく縮こまった状態から、大きく両手両足を広げて飛び上がる>

Eさん(3年):「①現在・今の自分、②過去・こどもや学生の時の自分、③未来・3年先や100歳の自分、又は死んだ後、などを考えられてとても面白い」「人でも/動物でも/風でも/宇宙でも、目に言えているもの見えないものもOK!」「心と体の解放…です‼」<赤ちゃん、老人、風、木・・・様々な役割を、小さくうなだれたり、大きく手を広げたりして演じる>

Fさん(3年):「感情の動きを素早くキャッチしてジェスチャーに結びつけることです」「ジェスチャーとは自分の感情を当意即妙に人前で演じることです」<両手を広げ、落ちてくる感情を両手でつかみ取る動き>

Gさん(スタッフ3年):「参加する前は気乗りしない感じですが、プログラム後は心が少し軽くなった気がします」<両手を広げ、片足立ち>

Hさん(10年以上:「始めの頃は体で表現するのに慣れていなくて難しいと思っていました。10年くらい続けたら人の中に入って自己表現することは、自分にとって良いことだと感じるようになりました」<楽しげにスキップする>

Iさん(3年):「私は3年間やっていますが、いまだに言葉でこうだという表現はありません」「最近は段々参加するのが楽しみです」「理由は皆で一緒にテーマにのっとって参加するからです」「人生はなかなか難しいもので、それを表現したい」「サイコドラマをやってきて私は成長したと思います」<腕を組んで考え込む>

Jさん(6か月):「サイコドラマとは爆発だァ~」「リラックス効果がある」<両手をだらんと下に伸ばして、体の力が抜けている。手先がリラックスを表している>

Kさん(15年以上):「態度も心も開くこと、ご自由に」「ゆっくり大きくはげむこと」<両手の握り拳を、天に向かって突き上げる>

Lさん(スタッフ・ディレクター20年):「子供の遊び」<子供の頃やった馬乗り遊びを男性メンバー数人で再現する>

Mさん(スタッフ3年):「知らなかった自分の一面、みんなを見て気づく」「新しい発見の場」<考える人のように顎に手を当て、他の人のアクションを興味深く見つめる>

Nさん(10年近く):「体を動かして違う方向に行ける」「自分のこだわりは持ちつつ、心の開放」<エアギターを激しくかき鳴らす>

Oさん(15年以上):「みんなで顔を合わせるのが大事」「ひとりじゃなくて、みんなでつくりあげる」<皆で肩を組んで円陣を組む>

そして、皆さんのコメントとアクションを聞いたAさんは、「実は、前回参加した時のことはあまり覚えていなかったんですが、今の皆さんのお話とか、動きとか見ていて、とても楽しそうだな…って。…私も、また参加して、体を使って表現してみたいなって思いました」と反応をした。

最後に、Aさんを含めた全員で「サイコドラマはこんな感じ!」というアクションをした。その後シェアリングで体験について言葉で振りかえって締めくくった。

 

サイコドラマは、言葉だけでなく、身体表現を行うことに大きな特徴がある。その身体表現は今ここでの即興性と自発性を用いた活動であり、シナリオのない即興劇だからこそ生まれる思いもよらない「動き」や、これまでとは違う新しい「役割」を見つけることが重要とされている。この身体表現を通して、自分の感情を表現し、カタルシスを得ることができる。そしてグループで行うことで、自分の表現が誰かに受け入れられる体験があり、そして誰かと共通する部分があると知り、また自分だけのオリジナルな面があることや自分と違う人がいることへの気づきがある。そしてサイコドラマの一番大事なことは、身体表現をしたままにせず、その体験が自分にとってどのような意味があるのかについて、言語を用いてアクションと統合することにある。今回のセッションを通して「サイコドラマのどのようなところに魅力を感じて参加しているのか」を、メンバー自身、我々ディレクターやスタッフがともに確認する機会となり、今後のプログラムの未来が見えた瞬間でもあった。

このセッションは、プログラムの実践の中のある一場面の切り取りである。この他にも様々なテーマ、グループ全体のテーマやある個人のテーマでセッションが進む。そのテーマをドラマとして形にしていくためのアクションや全体の流れは、ディレクターの演出にかかっている部分もあるが、同時にメンバーとともに作り上げていくものであり、一回として同じセッションはないからこそ、ワクワクし、楽しいものである。この即興性と一回性がサイコドラマの醍醐味であり、私たちサイコドラマティストは、この即興性を楽しめるようになること、「あそび」や「余白」を持てるようになることによって、参加される皆さんがすこしでも「人生を生きやすくなること」に貢献できたらと考えて実践を行っている。

 

 

参考文献

日本心理劇学会監修 心理劇入門-理論と実践から学ぶー 2020 慶応義塾大学出版会

 

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.02 2023年6月)

※PDFファイルで読む →サイコドラマ の現場から