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生活の中の語り/藤信子さん (リレーコラム01)

2021年11月16日

生活の中の語り

藤 信子

 毎月第4金曜日の午後、大学院の実習生と1時間程高齢者のデイサービスへの訪問を続けている。この訪問を始めた。10年前は、高齢者の心理的ケアは、病院や施設での回想法や、認知リハビリテーションなどが見られたが、地域で暮らす人の思いを受け止める機能を持っているとは言いにくいと思ったからである。

 大学院生にとっては、コミュニティにおける実習という位置づけをしている。訪問を始めた時には、午後のおやつまで一緒にレクリエーションをしながら、日常の話を聞いた。このデイサービスセンターのある場所は、京都の染物の産業の中心地であったため、訪問当初は,染物に関連した仕事の従事していた人が何人かおられた。たとえば、絵を描く人、模様の型を置く人の話は初めて聞くことで、着物ができるということが、細かな工程からできていることを知った。そのような話の中から、訪問する私たちが「京都のクイズ」や「漢字クイズ」を持っていくことにした。実習生や私は京都の出身でないこともあり、利用者から教えてもらうことが多く話が弾む。そして私たち、少なくとも私は、京都への関心と知識(?)が少し増えたように思う。「漢字クイズ」は、利用者は私たちより漢字に詳しいので、「京都のクイズ」のように、利用者が私たちに話すきっかけになると考えた。

 クイズを解きながら、そこからの連想は若い時の話が多く、そのため戦争中の話も多い。それは、おじさんが出征したのでおばさんの八百屋を手伝って大八車を引いた事、レース工場で働いていたが、真鍮を供出しなければならなかったので、型がなくなり工場は仕事が無くなったことなど戦争による生活や仕事の変化が具体的に語られる。また御池通は、二条駅から堀川までの通りがもともとの広さで、堀川通から河原町通まで広くなっているのは、戦争中に空襲の類焼を防ぐため強制疎開をさせて広くしたことなどを聞くと、御池通がまた違った見え方をするようになる。そのような世代間交流の中で聞く具体的な事柄は、より生活のイメージが伝わってくる。そしてそんな話ができる場ををつくることが、心理的ケアにつながるのではないかと考えている。

※PDFファイルで読む → リレーコラム「生活の中の語り」藤信子