変えないことで、変わるグループ
片柳 光昭
日々の暮らしのなかで、私はいくつもの「グループ」に属しているということに気付かされる。職場というグループ、家族というグループ、地域というグループ、そして顔を見たことのないオンラインでの趣味のグループ。グループに属しているからこそ、独りで過ごすことを楽しめているようにも感じられる。
私はこの春、長く勤めた組織を退職し、新たな組織に入り、役職者としての職務を担うことになった。私にとっては「新しいグループに入れていただく」という体験である一方で、組織の長という立場から、「新しいグループをつくる」ことにもなる。この「新入り」であり「リーダー」でもあるという立場は、なかなかに複雑である。既に形作られている関係性の中に、自分という存在がどのように影響するのか、慎重に見極めなければならないという思いがあった。受け入れてもらうことの大切さ、すでにあるグループを尊重すること、これらは私の中でのある重要な記憶と結びつく。
それは、災害後の中長期支援の現場での経験である。東日本大震災以降、長く被災地支援に携わってきたが、そこで私は何度も被災地域を外部組織が支援する難しさを目の当たりにした。「もっとこうしたほうがいい」「ここは変えるべきだ」——そうした外部からの支援の声が、被災地に生きる人びとや、そこで働く支援者を知らず知らずのうちに傷つけてしまうことがある。外部からの支援はときに力にもなるが、ときに相手の歩んできたそれまでの経過、努力、成果等を否定することになりかねない。このことは震災後の被災地支援に限ったことではないと考える。
だから私は、着任した職場ではまず「変えない」ことに取り組んだ。仮に組織運営から職場のレイアウトに至るまで、様々に改善の余地を感じたとしても、すぐに手を加えるのではなく、「これまで」を大切にすることを心がけた。長く勤めてこられた職員の皆さんが、日々の業務をどのように遂行し、どのような1日を過ごし、どのような思いを持っているのか、まずそれらを肯定し、受け入れることから始めた。
しばらくすると、不思議なことに徐々に職員のなかから「実はこう思っているんです」「こうしたほうがもっとよくなると思う」といった声が届くようになった。それは、私という「外から来た人間」から発信される変化ではなく、職場というグループが“自ら”変化を望むようになるプロセスだった。そしてそのタイミングで「変えない」ことから「変える」ことに職場全体で取り組む方向に舵を切った。「新入り」であり、「リーダー」でもある私は、この時点で「グループの一員」になったように感じた。
グループが形を変え、新たな形をつくる経過は様々あると思うが、今回、外からの力、上からの力による変化ではなく、その内側にある声から始まる変化を大切にしようと考え、取り組んだ。お陰様でこの変化は、現在のところ所属している職員からも好評であり、私自身もこの職場に所属していることに誇りと喜びを感じている。この職場は「私が加わって作り上げたグループ」ではなく、「皆でともに育て始めたグループ」だと言えるだろう。
グループとは、誰かが一方的につくるものではなく、時間と信頼関係のなかで、内側から形づくられていくものなのだと、改めて実感している。
日本集団精神療法学会公式HPコラム 2025年7月
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