.entry-title, #front-page-title { text-align: left; }

リレーコラム新企画 No.12 公募の質問への回答

2023年6月3日

岡島さん、髙林さんへの質問

職種に関わらず専門家の養成過程のなかで集団精神療法を学ぶ機会がほとんどないと聞いています。また、年次大会では学生の発表が他の学会と比べて少ない印象があります。集団精神療法を広げていく上では、若い世代の方に興味をもっていただき、積極的に参加してもらうことが大事だと考えています。そこで学部生や大学院生が集団精神療法を学ぶための方法や、若い世代の方が学会に参加・発表してもらうための工夫などについて、考えていることを教えてください。

岡島さんからの回答

「グループの次世代」育成のために

広報委員会から、「学部生や大学院生が集団精神療法を学ぶための方法や、若い世代の方が学会に参加・発表してもらうための工夫などについて、考えていることを教えてください」と依頼された。この歳になって若い人のことなどわかるわけない、普段学生と接する機会がそう多いわけでもないのでなおさら、と思うのだが、及ばずながら考えてみた。

心理系の学部とそれ以外の学部を分けて考えよう。心理系の学部を卒業した人が、なんらかの治療技法の修練を積むのはどういう動機によるのだろう?本を読んだり、ネットを見ていて、素晴らしい治療を見つけ、ぜひこれを学んでみたいと思って学会のホームページを開いてみる・・・ なんてことはそうそう起こるとは思えない。少なからぬ理由は、大学・大学院の指導教員がその治療を専門にしていた、ということではないだろうか。そこには、ついていけばキャリア形成ができるという現実的な要素もあるだろうが、教員がその治療技法についてメンターとなっていることも大きいように思う。無論いきなり大学教員に集団精神療法の専門家を増やすなんてことは非現実的だが、例えば職場で若い人を指導する立場になった際には、チャンスがあるのではないか。本学会の会員の中にも、集団精神療法の師と仰ぐメンターがいて、その人を目指し、またその人に励まされて(ときには叱咤されて)、トレーニングを続けてきた、という人は少なくないだろう。そうして育ってきた人が今度はメンターとなり、後進を育てるということが、どうしても必要だと思う。

そして、「わからなくてもいいからとにかく経験してみろ」という指導だけでは、今日では通用しないのではないだろうか。♪俺の目を見ろ 何にも言うな♪とか、“師匠の背中を見て覚える”とかいうのは昭和までのメンタリティである。すべてガイドラインやマニュアルがあればいいわけではないが、この治療はこういう目的を持っていて、それを達成するためにこういう工夫をしている、問題が起きた時はこのように対処できるといったことを、ある程度は明確に説明できないと、若い人は修行のスタートラインに立ってくれない気がする。従来本学会の教育研修の中心だった体験グループと事例検討に加えて、基本的な理論について勉強する機会がもっと増えてほしい。それぞれの個性はありながら、ある程度共通した考え方の枠組みが多くの会員に共有される必要があるのではないか、と考えている。

医学部や看護学部では、事情はさらに難しい。学生や新人医師・看護師は習得すべきことが多すぎて、治療グループはもとより、精神療法と出会うことすら少ない現状である。私には詳しい内情はわからないが、医療技術系や社会福祉系の学部でも、同様の状況ではないだろうか。打開策はとても思いつかないが、医療や福祉の場では集団精神療法を幅広くとらえることが、可能性を拓くのではないかと思う。医療現場では多職種協働が重視されているので、視野を広げれば、グループはたくさん行われている。心理教育や患者会、チーム会議やケース・カンファレンスなどである。そうした広義のグループに参加する中で、グループとしての視点や 、心理的な動きを大事にしていくと、「そんな見方ができるんだ!」と興味を持つ若者が現れるのではないか、と夢想している。

髙林さんからの回答

教育研修システムが出来上がった背景は、ご指摘のとおり大学等の教育機関に集団精神療法の講座がないことから始まっている。養成機関がなければ学会で作っていこうという考えでした。当時の学術大会での発表の質を高める意味もあり、最低限ここまでは身につけてもらいたいという思いで始まっています。

また、Y氏問題と言われている不祥事があり、学会自体が低迷している状態にもありました。そこで倫理と研修に取り組む方向になっていました。

学会員の構成としては、実際に臨床についている方が多く、集団精神療法のベテランも少なかったため、「相互学習」という考えを基本にしました。「教える者」と「教えられる者」が相互に研修していこうという考えです。「相互学習」は集団精神療法の考え方の基本的な部分だと思っています。

各種の集団精神療法の基本である「集団力動を見ること」と「力動にかかわっていくこと」を教育研修の目標としました。この2点を身につけてもらうために「体験グループ」の研修を始めました。体験グループだけを行っていましたが、会員からは考え方も学びたいという意見が出てきて「基礎講座」が開設されることになっています。

初期の頃の基礎講座は私が担当していました。臨床でのグループ体験から、コンダクターとして知っておくと大過なく出来るであろうと感じた考え方を紹介していました。基礎講座も体験的に学べるようにという基本的な考えは変わっていません。知識や技術を教えてもらうような講座にならないように、集団精神療法を体験できるように工夫しました。私が講師をして司会がクリティカルに突っ込みを入れるといった方法で行っていました。私と司会者とのやり取りを見ている受講者は、講師の話だけを基本とせずに、あれこれ仮説を立てて柔軟に対応する方法を学習出来るようにしました。ある回の基礎講座が終わり、参加していた知り合いのPSWから、「結局、高林さんは自分で考えろと言っているんですね」という感想をもらいました。自分の教え方は間違っていなかったと感じました。

教育研修委員会は学会員の状況に合わせて変化してきています。始まった当時の私の考え方を紹介しました。

最後に、知的情報の学習が中心となりがちの学部生や大学院生に、体験的に集団精神療法を学ぶ機会が提供できれば、臨床経験を持たずとも研究は十分に出来るのではないかと私は思っています。大学院で非常勤講師をしていたときに、集団精神療法を体験的に学べるように工夫をしていた経験からすると、やはり「体験グループ」だと思います。

 

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.12 2023年3月)

※PDFファイルで読む →リレーコラムNo.12 公募の質問への回答(岡島さん、髙林さん)

 

広報委員より

質問・感想の募集は終了しました。ご応募ありがとうございました。ご質問への回答をもって、御礼とさせていただきます。