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リレーコラム「集団精神療法のさまざまなかたち」 No.07 ~メンタライゼーション編 メンタライゼーションとは

2023年11月30日

メンタライゼーションとは

大橋 良枝

最近、よくメンタライゼーションという言葉を聞くようになったなあ、と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。JAGPは他学会に比べても、学術大会や教育研修等でメンタライゼーションが積極的に取り上げられている印象です。これにはもちろん、日本のメンタライジング臨床を牽引してきた白波瀬丈一郎さん、西村馨さん、渡部京太さんたちがJAGPでもご活躍なさっていることも大きいと思いますが、もう一つ私は、JAGPが相田信男さんの「病棟が心理学的になった」の言葉に共鳴する専門家集団であるということも関連するんじゃないかなと思っています。何となく、相性の良さのようなものをひしひしと感じているのです。

そして、今回こうしてメンタライゼーションのことを取り上げていただけるということですから、すでにあちこちに書かれているメンタライゼーションの説明だけだと、ちょっと面白くないので、JAGPとメンタライゼーションの接点を考えながら書いてみようと意気込んでいるところです。

さて、お題である、「メンタライゼーションとは」に入っていきます(ここはあちこちに書いてある説明に従います)。よく示されている定義は「個人が、自分や他者の行為を、個人的な欲望やニーズ、感情、信念、理由といった志向的精神状態に基づく意味のあるものとして、目次的かつ明示的に解釈する精神過程」が代表的です。志向的精神状態は難しい言葉ですが、端的に言えば行動の動機の説明になり得る心の状態と言いましょうか。この定義そのものをもっと簡単に言うと、開発者の1人であるPeter Fonagyの要約によれば、「holding mind in mind(こころでこころを思うこと)」と説明されます。これは、holding hand in hand(手と手を取り合う)という慣用句から来ており、こころとこころを寄り添わせる、というニュアンスだろうと考えられます(池田, 2021)。

元々は、Mentalization-based therapy(以下,MBT)という、境界性パーソナリティ症(BPD)の治療のための理論として始まりました。BPDの精神病理を、愛着発達上の課題と、それに基づく自己および他者、とりわけ重要な他者の行為の背景にある志向的精神状態を妥当な形で解釈することに伴う歪み(メンタライジングの歪み)として理論的に整理し、そのメンタライジングの歪みをターゲットとして治療しようとするものです。

MBTはその方法・基準がかなり明確に定義されておりますが、それだけに実際MBTを現場で行おうとするのはなかなか困難な部分があります。それでもこれらの理論から得られる様々な知見は私たちの日々の臨床に大変有用なものです。メンタライジングの視点と介入を中心に据える、MBT以外のサイコセラピー・アプローチ等は、メンタライジング・アプローチと呼ばれます。またMBT以外では、メンタライゼーションという言葉はほとんど使われておらず、Mentalizing「メンタライジング」と動詞(動いているもの)として呼ぶことが多くなっていることも、ここに付け加えておきます。

さて、ここからJAGPでの紹介文を意識して書いてみたいと思います。まず、MBTは開発当初、研究・治療プログラムの中で、個人とグループの組み合わせとして開発されたということがあります(Bateman & Fonagy, 2004)。これは、メンタライジング理論が精神病理を対人関係上の問題あるいは社会化の問題と強く関連付けて理解していることと関係あると思います。今回は紙幅も関連してMBT-Groupについては紹介いたしませんが、これもまたシステマティックに理論化されたものなのでご関心のある方は是非文献をご覧ください。

私が今回最も強調したいのはここからです。先ほどMBTは精神病理を対人関係上の問題あるいは社会化の問題と強く関連付けて理解していると書きました。MBTやメンタライジング・アプローチの発展を牽引している中心的人物の1人であるFonagyの関心は徐々に社会の問題に向けられていきます。この10月に参加したオンラインセミナーは複雑性PTSDが主題となっていましたが、彼はトラウマを孤独の問題と明確に関連させています。また重要な治療理論として強調されている、「認識的信頼」つまり他者から心に関心を向けられることを通じて育まれる、対人、社会への開放性を表す概念は、孤独に陥ることなく、社会文化的環境から利益を得られるようになることの重要性が強調されます。さらに、新たに発展してきているAMBIT(Adaptive mentalization based integrative treatmentメンタライゼーションに基づく適応的統合治療)という手法は、要支援者/クライアントに関わる多職種の支援者たちが分断し孤立することを防ぐシステムを提示しています。このように、現在メンタライジング臨床の中核的関心は、面接室でのクライアントの抱える社会的孤立や孤独の問題から、精神健康のリスクファクターとしての孤独の問題、ひいては地域における支援者間の分断と孤立孤独の問題までターゲットにしていることからも分かるように、孤独の問題にあると思うのです。そして、これはこの学会の中で私たちが大事だと共有できるものとして言葉になっている「(集団が)心理学的になること」と関連あると感じるのです。孤独は、心理学的な環境が得られなかったこと、得られなくなることによって起きる苦痛に満ちた状態であり、そうではない場を作るのだというポリシーが共有し得ると言いますか・・。

さて、前半はさておき、後半はかなり私にとってのメンタライゼーション、メンタライジング臨床かもしれません。ただJAGPへの所属感を思いながら書き出すと、こんな紹介になるかな、というところです。それでも、こうした文章の中に関心を覚え、もっと知りたいなと思ってくれる方がいらっしゃれば、最高だな!と思います。

この概論的な文章に続き、続く執筆者は、更にワクワクするものを書いてくれることでしょう。そちらに期待をつないで筆をおこうと思います。

 

日本集団精神療法学会公式HPコラム No.07 2023年11月

※PDFファイルで読む →メンタライゼーションとは